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さて、いよいよこのエッセイのシリーズはこれで最終回となりますが、今回は“カリグラフィーで仕事をする”というテーマで書いてみようと思います。 このエッセーの読者の皆様の中にはカリグラフィーという趣味を生かして仕事をしたいと考えていらっしゃる方もおられるかと思います。ご多分に漏れず、私自身もローハンプトンに来る前に“カリグラフィーの講師”になれたらいいなぁーと漠然と考えていました。ところが大学でカリグラフィーの技術と知識を深めていくにつれ、簡単にはカリグラフィーの先生などにはなれないということに気がつきました。また、どんな仕事がカリグラフィーを通じて可能なのかを調査してみると、プロとしてカリグラフィーに関わる仕事をするのが難しいことがわかりました。 |
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下田 恵子さん |
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| 佐藤恵美 (連絡先:letterandstone@hotmail.com) 2001年にローハンプトンを卒業後、私はカリグラフィーの仕事ではありませんが、大学で学んだカリグラフィーの知識と技術を生かせることのできる“レターカッティング”(Letter Cutting) という仕事をするカードーゾキンダスリーワークショップ(Cardozo Kindersley Workshop)の3年間の徒弟制に2002年の1月から就いています。現在は、1人前のレターカッティングの職人として独立する前の見習い期間中というわけです。 この工房はリダキンダスリー(Lida Kindersley) によって現在は運営されていますが、もともとは彼女の夫であり、師匠であったデービッドキンダスリー(David Kindersley:1915−1995)によって1936年に設立されました。(ワークショップ設立当初の場所はケンブリッジではありませんでした。) デービットはエドワードジョンストンの教え子のうちの1人であったエリックギル(Eric Gill:1882−1940;レターカッター、彫刻家、カリグラファー、イラストレーター、そしてタイプデザイナーであった)の徒弟として彼のワークショップで2年を過ごした後、独立。イギリス国内ではエリックギルの死後、この分野では第1人者の一人として後継者を育るばかりでなく、レターカッティングの分野を超えてカリグラフィー、タイポグラフィー、そしてその他の様々なレタリングの分野に大きな影響を与えました。 (ウェッブサイト:http://www.kindersleyworkshop.co.uk) 私が学生の当時、レターカッティングについてやこのワークショップの事については講師から聞いてはいましたが、まったく体験したことのない分野でしたので、その道に進もうとは考えてもみませんでした。ですが、大学2年と3年目の間の夏休みに、トムパーキンス(Tom Perkins:現在イギリスで最も活躍するレターカッターの1人)のレターカッティングのウィークエンドコースを受けたことでこの分野により興味を持つようになりました。 そして、大学卒業後にもう少しカリグラフィーやレタリング、特にタイポグラフィの要素を多分に含んだ分野での学習をもう少し進めたいと思いたち、イギリスで長い間タイポグラフィーの分野で仕事をなさっている日本人の方に相談したところ、このワークショップを推薦されたわけです。 まず、ワークショップを見学に行き、リダからいろいろな説明を受けました。その中でも最も印象に残った彼女の言葉は、“仕事は決して急いで仕上げる必要はない。納得のいく仕上がりになるまで好きなだけ時間をとっていい。”でした。その言葉はまさに、彼女のワークショップが“仕事の質”にこだわっていることの表れだと思いましたし、あまりなじみのない世界に飛び込もうとする私にとってはたいへんな勇気付けとなりました。その後リダとワークショップのマネジャーとの面接の結果、採用になりました。 3年間の徒弟制ということで、実際に仕事をしてお給料を頂きながら学ぶということになりまが、最初の2ヶ月はまったく給料を支払われませんでした。もちろんこの2ヶ月間はワークショップにとって私からの実際の利益となる労働は得られませんので無賃労働は正当なことと思いましたが正直なところ金銭的にはかなり辛かったです。 仕事を始めてからの1ヶ月の間にしたことは、主にローマンキャピタル26文字をAからZまで鉛筆で書くことでした。ワークショップのキャピタルはトラジャンコラムのキャピタルをモデルにしているものの、ワークショップ独特の特徴があるので、私の書いたローハンプトンで習ったキャピタル(トラジャンコラムのキャピタルにより忠実)にはだいぶ修正を入れられました。しかしながら、その反面新たに学ぶこともたくさんありました。その後、初めて石を彫るためのチズル(Chisel=鑿)を持ったのは1ヶ月以上を過ぎてからでした。 さて、このワークショップが日常どんな仕事をしているかというと、個人のクライアントからは主に墓石、家の番号や名前を記した石の表札などですが公共機関、例えば大学、博物館、美術館、病院などからも記念碑の依頼などがたくさんあります。現在、ロンドン近郊で見られるワークショップがした仕事は、大英図書館(British Library)のメインゲート(正門)やセイントポール大聖堂(St. Paul Cathedral) の隣にできた新しく証券取引所となる予定のビルの壁に彫られた日時計(厳密には、正午を示すNoon Marker)、そしてケンブリッジにあるフィッツウィリアムス博物館(Fitzwilliam Museum)内に新しく増設されたビルの壁に彫られた寄付金者名簿などです。 日本でもそうですが、何百年,何千年と残しておきたい記録は主に石に彫られてきました。特にヨーロッパは広範な地域にわたり地震といった災害が少なかったために石に彫られた記録は博物館内だけではなく、街のいたるところに残っています。今でもローマ市内のストリートサイン(Street Sign;街路名を記した表札)は石に彫られています。 このワークショップが手がけている仕事はそういった何十年、何百年と残る事を目的に作られています。実際に仕事の注文が入ってから最終的に形になるまで数年を費やすこともあります。石に彫られる文章や文字のレイアウトのデザインにはクライアントの意向を尊重しまた、字が彫られる石も、クライアントの好みが反映されています。 石の上に直接かかれる下書きはデザイン画からおこされ、クライアント、リダそして下書きをする者それぞれが納得いくまで時間が費やされます。ですから実際に石に彫る時間の方が1つの仕事の進行に費やした時間より短かったりすることがあります。 現在、私は石に字を彫ることを重点的におこなっていますが、デザイン画をデザインしたり石の上に直接鉛筆で下書きをしたり、石の型紙を厚紙に写し取ったりといった様々な要素の仕事をしています。 カリグラフィーとはまったく違うと思われる方もいらっしゃることと思います。確かに、まったく異なった技術と道具を使いこなし、またカリグラフィーが扱う分野とレターカッティングが扱う文字の分野は基本的には異なっています。(例えば、扱う文字の大きさを考えてみてください。カリグラフィーは基本的には手元で扱われるサイズの大きさです。レターカッティングが扱う文字はある程度距離の離れたところから読まれることを意識して扱われる文字です。) しかしながら、多くの要素がこの2つのCrafts(工芸=手を使って物を作る)には共通しています。特にそれらの要素から私にとって重要と思われるのは、まず“文字の形を見る目”と作品の中に表される“リズムの調和”でしょう。この2つの要素は言葉で表すのは基本的にはとても難しく、また書ききることができないのでここでは詳しく申し上げません。ですがこの2つの要素はは欧文の書体をメインにしたグラフィックデザインや、欧文書体のデザイン、タイポグラフィーなどの分野でも重要なことがこの仕事を始めてわかりました。 私の今後の目標ですが、この2つのCraftを通じてフリーランスで仕事を続けたいと思っています。また、カリグラフィーとレタリングを教えることも考えています。 これからイギリスでカリグラフィー関連の仕事をなさりたい方へのアドバイスですが、自分が仕事で何を達成したいのかをなるべくはっきりさせることかと思います。もちろん、目標を持ってもそれを達成できないことも多々あるかと思います。でも目標を持つことで今、何が必要なのかまた何が大事なのかかがわかってくるかと思います。 |
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今まで、不定期に更新されるエッセーでありましたが興味を持って読んでいただいた方々には心から感謝申し上げます。また、個人的にメールをいただいた方々の感想や質問はたいへん興味深く、それらに関しての情報はそのうちどこかで発表できればいいなぁーと思っています。そして、このような素晴らしい機会を与えてくださった木根淵さんには心から感謝をしております。ありがとうございました。また、レイアウトを担当してくれた方々、そして毎回こりずにこのエッセイの校正読みをしてくれた下田恵子さん、PCを快く使わせてくれた野本里佳子さん、そして映像を担当してくれたJames Magetson氏にもこの場を借りて感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。 今回のシリーズで書ききれなかった経験はたくさんありますが、また皆様にどこかでカリグラフィーやレタリングについての意見の交換ができる日が来るのを楽しみにしています。 佐藤恵美 |
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