カリグラフィーはアルファベットを手書きで自由に表現するビジュアル・アートです。カリグラフィーと言う言葉はこの10年の間にかなり日本に浸透してきました。もともとは、古代ギリシャ語の「良い文字」、「美しい文字」という言葉を語源にし、文字のアートで、文字=言葉であり、カリグラフィーは言葉を伝える芸術です。

カリグラフィーと言う言葉は17世紀には存在したそうですが、実際に手書きアルファベットの芸術をカリグラフィーとして呼ぶようになったのは20世紀です。手書きアルファベットの歴史は古いのですが、単なる写本の技術あるいは様々な装飾芸術の一部としか考えられず、カリグラフィーを独立した芸術の一分野とみなすようになったのは、意外に新しいできごとでした。

西欧ではグーテンベルクの印刷機の出現で手書き文字の文化が徐々に廃れてしまい、世の中から手書き文字の「美しさ、良さ」が忘れ去られていきます。しかし、グーテンベルク以降イタリアで発達した美しい印刷文字にしても10世紀頃の「カロリング体」という手書き文字をモデルにデザインされたもので、「美しい文字」の伝達は生き続けていました。

19世紀後半、ウィリアム・モリス(イギリスの工芸家・詩人・社会運動家)らのアート&クラフト運動により、伝統的な美術・デザインが見直されるようになると、その中からエドワード・ジョンストンが現れ、近代カリグラフィーの基礎をつくりあげました。しかしジョンストン自身さえ「カリグラフィー」という言葉は使っておらず、彼の著書にも「Writing、Illuminating and Lettering」(書き方、装飾、レタリング)や「Formal Penmanship」(あらたまった文字の書き方)といったように違う呼び方がついています。しかし、西洋の文字文化はここから再出発したと言っても過言ではないと思います。

近代カリグラフィーはその後、大きな戦争などの記念碑、戦没者の名前や記録などを記す方法として広く認められるようになり、20世紀中ごろにはヨーロッパからアメリカにも広がりました。

最近では東洋の書や中東の文字文化の影響を受け、抽象的な作品も生まれてきました。デジタル文化の中でも刺激されながら、今日の西洋のカリグラフィーは活きいきと発展してきています。

20世紀初頭のカリグラフィーの定義と21世紀のカリグラフィーの定義は少しずつですが変わってきました。国際的なカリグラフィーの交流集会の名前もレタリングの世界も含まれ範囲が広くなってきたようです。その証拠に、カリグラフィー・カンファレンスからカリグラフィー&レタリング・カンファレンスに変わってきましたし、カリグラフィーの季刊誌の名前もCalligraphy Review からLetter Art Reviewへと変わりました。

「カリグラフィー」から「レター・アート」へ表現が変わっても手書きアルファベットの世界は変わりません。デジタル文字となっても手書き文字の良さは残されています。モダン・カリグラフィーにせよ、印刷文字、デジタル文字にせよ、基本は歴史が残してくれた文字の中にあり、書の世界にしろ、音楽の世界にしろ、古典の基礎があるからモダン・バリエーションが生まれるのです。写本、拓本の世界から現代に伝わるモダン・カリグラフィー、レタリングの世界を一度覗いてみて下さい。そしてアルファベットの歴史とビジュアル・アートの世界を楽しんで下さい。


 



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